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日本語を味わう「小僧の神様・城の崎にて」

ショーペンハウアーが 「読書について」 で述べた通り、 時間のふるいにかけられ残ってきた書籍は良書の可能性が格段に高い。 だから古い小説をたまに手に取る。 今回は志賀直哉の短編集を読んだ。 志賀直哉は日本史で名前が出てくるくらいの 近代日本を代表する小説家の一人。 暗夜行路が代表作。 暗夜行路はページ数も多く読むのが大変な小説だったが、 本書は短編集なので読み易かった。 但し、志賀直哉特有の文のキレは健在だ。 志賀の文は濃い。 隙が無い。 遊びが無い。 容赦が無い。 この人のように文が書けたらと思い、 読む度に襟を正される。 表題になっている「小僧の神様」はやはり面白かった。 (この作品にちなんで志賀直哉は「小説の神様」と呼称されている) 唐突な作者の登場による幕引きに驚いたが 「この手が合ったか」という優しい結末に頬が緩んだ。 同じく題名にも使われている「城の崎にて」も唸らされる随筆だった。 死という大きなテーマをたった10ページでまとめ上げる才能を私は他に知らない。 しかし、後半の数本は実話を元にした浮気の話で 文のキレは相変わらず良いのだが、 読んでいて楽しくなかった。 書くことが無くなって 我が身を切り売りしているかのようで悲しい。 創作を生業とする者の宿命ではあるけれど、 「それ」ばかりを続けられると疲れる。 ただ、その作品に出演させられた他の人々の感想が垣間見えて そこはとても興味深く読んだ。 この辺りのいわゆる「私小説」というカテゴリーは 読んでいて変な疲れが必ずつきまとう。 だからつい、読むのを後回しにしてしまうのだが、 今回は表題の二作に救われた。 キレのある日本語を学ぶには最適ながら、 内容的には重い、いかにも古典日本小説的な一冊。 自分の言葉の基準作りのためにも、 やはりこういう読書が私には欠かせない。 志賀直哉著 新潮社 昭和43年刊