傑作!「砂糖の世界史」
「大人になるっておもしろい?」 以来の岩波ジュニア新書の一冊です。 私は子ども向けの解説本を大人向けの解説本よりも信頼してます。 理由は以下の通り。 著者選定の際に、 まず、その道の第一人者に白羽の矢が立つこと。 そして、最先端の話ではなく、 ベーシックな部分をじっくりと解説してくれること。 最後に、子ども向けなので説明が非常に分かりやすいこと。 そんな訳で、書店に行った際には児童書コーナーもよく徘徊してます。 さて、そんな児童書「砂糖の世界史」です。 「砂糖を通して歴史を見てみよう」というのが本書のテーマです。 これがまぁ、おもしろい! 砂糖を作るのに多くの奴隷が必要だったので 必然的に奴隷貿易の話が入ってきますし、 砂糖の大消費地となったイギリスの歴史、文化の話も出てきますし、 砂糖の浸透に欠かせなかった紅茶の話が出てくるので アジアとヨーロッパの貿易の話がでてきます。 こういう歴史の捉え方を「世界システム論」というそうです。 また、砂糖とその砂糖を愛好する人々を論じる捉え方を 「歴史人類学」というそうです。 本書はこの二つの視点からの歴史解説書です。 なぜ、産業革命がイギリスで起きたのか、 なぜ、アメリカはイギリスから独立したのか、 なぜ、イギリスが「大英帝国」といわれる地位を確立したのか、 そして、その地位をなぜ失うことになったのか、 これらが染み入るように理解できます。 (更に、本書を読んだあとなら、 SDGsがいかに欧米のマッチポンプであるかも自ずと見えてきます) 学校の勉強は受験がゴールなので どうしても「暗記」が中心になってしまいますが、 歴史を勉強する大きな目的の一つは 「その時代、その地域の人々と共感し合うこと」と筆者は述べます。 この本で筆者はこの再現に大成功を収めています。 「歴史学」の面白さがこの本には詰まっています。 歴史が嫌いな人にこそ手にとっていただきたい名著です。 岩波書店 川北 稔著 1996年